Ikeda Consulting Office

Blog一覧へ

「なんとなく追っている数字」で終わらせない―KGI・KPIツリーで収益構造を分解する

前回の記事では、管理会計のうち、まず取り組みたい部門別損益と、業績管理と両輪で整備したい資金繰り表をお伝えしました。今回は、業績の見える化を一段深めるために有効なKGI・KPIツリーを取り上げます。

KGI・KPIツリーとは

KGI・KPIツリーとは、KGI(営業利益)を頂点として、その構成要素を体系的に分解し、ビジネスモデルにとってのKPIを明確にしたものです。営業利益は、売上高・売上総利益・販売費及び一般管理費の数字によって導き出されます。売上高は客数・客単価へと分解され、費用も原価・人件費・地代家賃などに分解されます。

出発点は、損益計算書の3段階の構造

図表4-6 損益計算書(PL)の基本構造

売上高から売上原価を引くと売上総利益(いわゆる粗利)になり、そこから販売費及び一般管理費(販管費)を引くと営業利益になります。この「売上高→売上総利益→営業利益」という3段階の構造さえ押さえておけば、管理会計・KPIの話は格段に理解しやすくなります。この構造を、さらに要素分解していったものがKGI・KPIツリーです。

KGI・KPIツリーの例(サービス業・サロン)

図表4-7 営業利益を頂点としたKGI・KPIツリー

サービス業(サロン)における営業利益を起点として、売上高・売上総利益・売上原価・販売費及び一般管理費へと構造的に分解した一例です。本来は1枚のツリーとしてつながっていますが、2つの図に分けて掲載しています。前半の図は客数・平均客単価とその配下の指標を、後半の図は売上原価および販売費及び一般管理費の内訳を示しています。

営業利益は、単なる結果の数字ではありません。複数の要因が積み重なった結果として、はじめて生まれる数字です。KGI・KPIツリーを作成することで、自社が本当に追うべき重要指標(KPI)は何か、どこを改善すれば利益が出るのかが明確になります。

よくあるつまずき―KGIとKPIがつながっていない

多くの企業で見られるつまずきが、「KGIとKPIがつながっていない」状態です。KGI(営業利益などの最終目標)と、日々追いかけているKPI(客数・稼働率等)が、感覚的には関連していそうでも、実際には数字としてつながっていません。そのため、KPIを改善しても、それがKGIにどれだけ効いているのかが分からず、KPIが「なんとなく追っている数字」で終わってしまいます。

これを防ぐには、KGI・KPIツリーを使って「このKPIをこの水準まで改善すると、KGIはこうなる」というシミュレーションを行うことです。たとえば売上高を伸ばす場合、客数を増やすのか、客単価を上げるのかによって、必要な打ち手も、KGIへの効き方も変わってきます。このシミュレーションを丁寧に行うことで、感覚的な「頑張る」ではなく、根拠のある戦略の選択ができるようになります。

自社でやってみる① KGI・KPIツリーを作る手順

  1. 頂点にKGI(営業利益)を置く

  2. PLの3段階に分ける:売上高・売上総利益(売上原価)・販売費及び一般管理費に分解します。

  3. 売上高を分解する:客数・客単価へ、さらにその配下の指標へと分解していきます。

  4. 費用を分解する:原価・人件費・地代家賃などに分解します。

  5. 結果の手前にあるKPIまで分解する:商談件数・成約率・リピート率・稼働率といった、結果が数字として確定する前に動く指標まで落とし込みます。

  6. シミュレーションする:「このKPIをこの水準まで改善すると、KGIはこうなる」を数字で確かめます。

ポイントは、追うべきKPIを「売上」を伸ばす視点だけでなく、「利益(利益率)」を高める視点からも設計することです。売上を伸ばすことだけを追いかけると、値引きしてでも件数を稼ぐという方向に流れがちですが、本当に会社に残るのは利益です。

また、結果の手前にあるKPIまで分解して先行して管理することで、「来月の着地がすでに見えている」という状態に近づけることができます。結果が出てから対策を考えるのではなく、結果が出る前の段階で手を打てるようになることこそ、KGI・KPIツリーを作る本来の狙いです。

目標を設計する際は、「現状のまま推移した場合」と「目標を達成した場合」の2つのモデルを並べて比較することをお勧めします。目標達成後の姿だけを見ていると、利益は改善していても、運転資金の増加や税金・借入返済のタイミングによって、かえって資金繰りが厳しくなる、という落とし穴に気づけないことがあります。

自社でやってみる② 社内に定着させる5つの工夫

KGI・KPIツリーは、一度図を作って終わりにしてしまうと、時間の経過とともに使われなくなり、形骸化してしまいがちです。

  1. 大枠は経営陣が設計し、細部はマネジャーが作り込む:社長のみで完成させて配布するのではなく、「落とし込み」を行うことで、「なぜこの指標を追うのか」という背景も含めて理解されやすくなります。

  2. KPIの数を絞り込む:各部門・各階層で本当に重要な指標を数個に絞り、それ以外は必要なときに参照する補助的な指標として位置づけます。

  3. KPIに担当者を紐づける:誰の責任でその数字を動かすのかを決めることで、数字に対する当事者意識が生まれます。

  4. 日常の中で自然に目に入る仕組みにする:ダッシュボードとして常時閲覧できるようにする、朝礼や週次のミーティングで簡単に共有する、事務所の見えるところにボードとして掲示する、といった工夫をします。

  5. 年に一度は棚卸しする:事業構造やビジネスモデルが変化すれば、追うべきKPIも変わります。少なくとも年に一度は、ツリー全体が今の事業実態に合っているかを見直します。

KPIは設定しただけでは意味がありません。会計上の売上高・売上総利益・営業利益の達成状況と対策、KPIの達成状況と対策。この両方を毎月確認する場を設けます。帳票を作ることが目的ではなく、数字をもとに会話が生まれているかが重要です。

次回は、数字が独り歩きしないよう「なぜその数字になったのか」を語る場である、予実会議についてお伝えする予定です。

※拙著『経営の仕組みが、中小企業の成長を加速させる』第4章では、KGI・KPIツリーのほか、CVP分析や収益改善マネジメントの8ステップなど、数字を判断の武器にする管理会計の考え方を詳しくご紹介しています。

本書はAmazonでお求めいただけます(ペーパーバック版・Kindle版)。KGI・KPIツリーについてもう少し詳しく知りたい方は、よろしければご覧ください。(Amazonの書籍ページ)