Ikeda Consulting Office

Blog一覧へ

「結果の数字」だけを見る経営から抜け出す―部門別損益と資金繰り表で始める管理会計

前回の記事では、企業経営体系図の第3階層のうち、計画を仕組みとして実行・検証する「守り」の機能である経営管理の全体像をお伝えしました。今回は、経営管理のうち「カネ」、すなわち日々の数字をどう管理し、判断に活かしていくかを扱う管理会計を取り上げます。管理会計の中でもまず取り組みたい部門別損益と、業績管理と両輪で整備したい資金繰り表を中心にお伝えします。

結果の数字しか見えていない経営

多くの社長は、決算書や月次試算表、特に売上高の数字や現預金残高を確認しています。今月の売上はいくらか。利益はいくらか。前年と比べてどうか。もちろん、これらは重要な数字です。

しかし現場では、「なぜその結果になったのか」「来月、再来月はどうなるのか」「どこに手を打てば改善するのか」を、根拠をもって説明できないケースが多く見られます。これは、「結果の数字」だけを見ており、収益構造が見えていない状態と言えます。

背景には、多くの中小企業において、会計が「税務申告のための会計」としてしか機能していないという事情があります。月次の試算表を作成し、決算で税額を確定させる。この流れ自体は経営に欠かせないものですが、それだけでは「なぜ利益が出たのか」「来月どうなるのか」に答えることはできません。ここで必要になるのが、管理会計という、もうひとつの会計の使い方です。

管理会計と財務会計・税務会計は何が違うのか

管理会計と財務会計は、同じ「会計」という言葉を使いながら、目的も作り方もまったく異なるものです。

  • 財務会計・税務会計(社外向けの会計):株主・金融機関・取引先といった社外の関係者に向けて会社の状態を正しく報告し、法人税法などに従って税額を正しく計算するための会計です。税法や会社法、会計基準といった外部のルールに従って作成する必要があり、勝手に区分方法を変えることはできません。対象は確定した過去の数字で、基本的には全社をひとくくりにして、決算や確定申告のタイミングで作成されます。

  • 管理会計:社長をはじめとする社内の意思決定者が、経営判断を行うために使う会計です。外部のルールに縛られる必要がないため、部門別・拠点別・商品別・顧客別など、自社の実態に合わせて意思決定に役立つ形に自由に区分できます。決算を待たず、月次、場合によっては週次・日次で数字を把握し、今後の見込みや予算といった未来の数字まで扱います。

両者は対立するものではなく、補完関係にあります。管理会計は、財務会計で作られた損益計算書や貸借対照表の数字をベースにしながら、それを経営判断に使える形に組み替えたものです。そのため、まず財務会計の数字が正確であることが前提になります。そのうえで、「何を判断したいのか」「何を測りたいのか」から逆算して、区分の軸や集計のタイミングを設計していきます。この設計を、社長自身が経営管理の視点で主導することが、管理会計を経営に実装するための出発点になります。

まず初めに取り組むのは、部門別損益管理

管理会計の中でも、まず初めに取り組むものが部門別損益管理です。部門別損益を導入することで、利益が出ている部門・利益が出ていない部門、売上総利益率の差、一人当たり売上総利益の違い、生産性のばらつきが明確になります。「どこから手を打つべきか」「何がボトルネックになっているのか」が、感覚ではなく数字で見えるようになります。

自社でやってみる① 部門を分ける「軸」を決める

部門別損益を実際に作ろうとすると、まず直面するのが「どの軸で部門を分けるか」という問題です。営業所・拠点別、事業部別、商品・サービス別、顧客(取引先)別など、分け方は1つではありません。

重要なのは、あらゆる軸を網羅しようとすることではなく、自社のビジネスモデル上、最も意思決定に直結する軸を選ぶことです。たとえば、複数拠点を展開するサービス業であれば拠点別、複数の事業を営む会社であれば事業部別に分けると、経営判断に直結しやすくなります。

自社でやってみる② 費用の配賦は「概算」から始める

軸が決まったら、次に決めるのが費用の配賦です。売上高や原価(変動費)は部門ごとに直接紐づけやすい一方、本社の管理部門にかかる費用や、複数部門が共同で使う経費(共通費)をどう配分するかで悩むケースが多く見られます。配賦の基準には、売上高按分・従業員数按分・使用時間按分などがあり、費用の性質に応じて使い分けます。

ポイントは、最初から完璧な配賦ルールを作ろうとしないことです。次の順で進めるのが現実的です。

  1. 「その部門で直接発生していることが明確な費用」だけで、部門別損益を作成する

  2. 共通費の配賦は、概算のルールで始める

  3. 運用しながら精度を上げ、毎月更新していく

  4. 会計システム上で部門コードや補助科目をあらかじめ設定し、日々の仕訳を入力する段階から、どの部門の取引かが分かる状態にしておく

部門別損益計算書の見方

実際の成果物がどのような形になるのか、例をご紹介します。

図表4-2 部門別損益計算書(単位:百万円)

見方は次のとおりです。

  • 貢献利益:直接固定費までを差し引いた、部門が直接コントロールできる範囲の損益

  • 部門別営業利益:本社機能などの共通費を配賦した後の、全社合計と一致する損益

共通費配賦の結果は、配賦方法や配賦対象の設計次第で大きく変わります。部門長との対話では、まず貢献利益を中心に評価し、部門別営業利益は「会社全体として見たときの位置づけ」を理解してもらうための参考情報として使うと、納得感を得やすくなります。

部門別損益管理の4つの落とし穴

部門別損益管理は効果が高い一方で、導入・運用の過程でいくつかの落とし穴があります。あらかじめ知っておくことで、遠回りを避けることができます。

  1. 配賦基準の精緻さにこだわりすぎて、運用が始まらない:まずは大まかな基準で運用を始め、走りながら改善していく方が、結果的に早く効果を出すことができます。

  2. 数字が独り歩きし、部門間の対立を生む:部門別損益はあくまで「対話のための材料」であり、犯人探しの道具ではありません。この位置づけを、運用を始める前に社内で共有しておくことが重要です。

  3. 共通費の配賦比率を固定したまま、事業構造の変化と乖離していく:人員構成や事業の重心が変われば、適切な配賦基準も変わります。半年から一年に一度は、配賦基準そのものを見直す機会を設けることをお勧めします。

  4. 部門別損益だけを見て、全社の数字を見失う:部門ごとの最適化が、必ずしも全社の最適化につながるとは限りません。部門別損益は、常に全社の損益計算書とセットで確認します。

資金繰りは「予測」で見る

業績管理と並んで重要なのが、資金繰り管理です。多くの社長は、直近の支払いに問題がないかを確認しています。しかし本当に重要なのは、先半年から1年間の資金の動きが見えているかという点です。

損益計算書上は黒字であっても、売掛金の回収が遅れたり、在庫や設備投資に資金が先行して出ていったりすることで、手元の資金がショートしてしまう、いわゆる黒字倒産のリスクは、業績管理だけでは見えてきません。だからこそ、業績を見る仕組みと、資金繰りを見る仕組みは、両輪として整備しておく必要があります。

資金繰り表は単独で作ることはできず、売上計画・要員計画・経費計画・投資計画・資金調達計画・運転資金計画を積み上げた結果として完成します。将来予測の資金繰り表は、計画の集大成と言えます。

自社でやってみる③ 資金繰り表を作る7つの手順

  1. 過去の実績を整理する:直近1年程度の入金・出金の実績を月別に並べ、季節による変動や入出金のパターンを把握します。

  2. 売上計画を月別の入金予定に積み上げる:売上が計上されるタイミングと実際に入金されるタイミングのズレに注意し、売上債権回転期間(売掛金の回収にかかる平均日数)を踏まえて、いつ・いくら入金されるのかを見積もります。

  3. 経費計画を月別の支払予定に積み上げる:固定費・変動費の計画を、実際に現金が出ていくタイミングに変換します。仕入債務回転期間(買掛金の支払いにかかる平均日数)も踏まえます。

  4. 人員計画を反映する:採用・退職の予定、昇給・賞与の支給月、社会保険料(会社負担分を含む)の増減など、人件費の月ごとの波を反映します。

  5. 投資計画と資金調達計画を反映する:設備投資の支払時期、借入金の実行時期と返済スケジュールを織り込みます。大型の設備投資がある場合は、支払いと借入実行のタイミングにズレが生じないよう、慎重にスケジュールを組みます。

  6. 運転資金の増減を確認する:売上が増加する局面では、売掛金や在庫が先行して増加し、かえって資金が圧迫されやすくなります。「売上が増えているのに資金繰りが厳しくなる」状態は、多くの場合この運転資金の増加によって説明できます。

  7. 月末の資金残高を算出する:資金がショートする月がないかを確認します。不足する月が見えた場合は、資金調達・支払サイトの交渉・投資時期の見直しといった対応策を、余裕を持った時期に検討できます。

資金繰り表についても、部門別損益と同じことが言えます。最初から精緻な資金繰り表を作ろうとする必要はありません。まずは大まかな月次の入出金予測から始め、実績と見込みの差を確認しながら、運用を重ねる中で精度を上げていく方が、現実的で長続きします。

図表4-11 先半年間を見通す資金繰り表

この図は、資金繰り表の一例です。実績(直近月)に加えて、先半年分(6か月分)の予測を月次一覧として掲載しています(実際の運用では、同様の形式で1年分を月次一覧にして管理することをお勧めします)。収入合計・支出合計から営業CFを算出し、そこに借入金の調達・返済(財務CF)や設備等の購入・売却(投資CF)を組み合わせることで、会計上の利益と実際の資金の動きを同時に捉えることができます。

チェックリスト―業績を正しく把握する仕組みが構築できているか

最後に、自社の状態を確認してみてください。全9項目のうち5個以上当てはまる場合は要注意です。当てはまる項目が多い場合、業績管理の仕組みを再構築することで、感覚で判断していたものを根拠をもって判断できるようになり、再現性が向上する可能性があります。

  • 先1年間の資金繰りが見えていない

  • 損益分岐点(あといくら売上が落ちたら赤字になるか)を把握していない

  • 管理会計と財務会計・税務会計の違いを意識したことがない

  • 数字の振り返りが形式的になっている。もしくは振り返りをしていない

  • KPIが体系的に整理されていない

  • 部門別の収益構造が分からない

  • 来月、来期の着地見込みを説明できない

  • 値決めが、原価や工数の根拠に基づかず、感覚で行われている

  • 予実会議が定例化していない

次回は、収益構造を分解し、追うべき重要指標を社内で共有するためのKGI・KPIツリーについてお伝えする予定です。

※拙著『経営の仕組みが、中小企業の成長を加速させる』第4章では、部門別損益のほか、価格算定表・工数管理表、KGI・KPIツリー、CVP分析、資金繰り表など、数字を判断の武器にする管理会計の考え方を詳しくご紹介しています。

本書はAmazonでお求めいただけます(ペーパーバック版・Kindle版)。管理会計についてもう少し詳しく知りたい方は、よろしければご覧ください。(Amazonの書籍ページ)