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「やらされるもの」ではなく「自分たちで設計するもの」―企業経営体系図で考える「守り」の経営管理

前回の記事では、企業経営体系図の第3階層のうち、戦略を推進する「攻め」の機能である経営企画をお伝えしました。今回は、同じ第3階層に並ぶもう一方の機能、「守り」の経営管理を取り上げます。

経営管理とは「管理・統制」ではありますが、社長の行動を制限したり、自由を奪ったりするものではありません。会社がうまく回るために、自分たちで設計するものであり、誰かに強制されるものでも、「やらされるもの」でもありません。

経営管理は、計画を仕組みとして実行・検証する「守り」の機能

経営企画が、市場や機会を捉えて打ち手を組み立てる「攻め」の機能だとすれば、経営管理は、その打ち手を仕組みとして実行し、検証する「守り」の機能です。攻めと守りは対立するものではなく、第3階層の両輪として、理念体系から導かれた戦略・計画を実現するために互いを支え合っています。

経営管理は、予実管理や月次のKPIチェックだけを指すものではありません。機能別に、次の5つに分かれます。

  • 財務経理:財務諸表作成、資金調達・資金繰り、与信管理、契約管理、経理

  • 業績管理:KGI・KPIマネジメント、部門別損益管理、予実管理、原価管理、在庫管理

  • 組織運営:採用・配置、業務・職務分掌、決裁権限基準、コミュニケーションルール、会議体運営

  • 人事労務:等級制度、評価制度、報酬制度、育成制度、労務

  • DX/AI・その他:DX/AI導入・情報セキュリティ、法務・知財、スケジュール管理、5S・業務標準化・品質管理、コンプライアンス

図表2-3 企業経営体系図(2/2)―経営企画・経営管理

5つの機能は、つながっている

この5つの機能は、それぞれ独立しているように見えて、実は密接につながっています。

  • 財務経理の財務諸表作成は、業績管理の部門別損益管理や予実管理と数字を共有する

  • 組織運営の決裁権限基準は、財務経理の資金調達だけでなく、経営企画で立てた投資計画をいくらまでの権限で実行してよいかという判断にも関わる

  • 人事の評価制度は、業績管理のKPIと連動していなければ、「評価される行動」と「会社が本当に伸ばしたい成果」がずれてしまう

多くの中小企業では、これらの機能がそれぞれ別の担当者(あるいは社長自身)によって、連携を意識しないままバラバラに運用されています。経営管理を強化するとは、個々の機能の精度を上げることだけでなく、機能同士のつながりを設計し直すことでもあります。

「経営管理をやろう」として挫折する理由

経営管理は、理念体系や戦略・計画、経営企画とのつながりがあって初めて機能する仕組みです。経営企画による分析がなければ経営管理は根拠を失い、戦略・計画がなければ経営管理は実行に移されません。

多くの中小企業が「経営管理をやろう」として挫折するのは、業績管理の帳票づくりだけを切り出し、理念や分析、計画とのつながりを欠いたまま進めてしまうことが少なくないからです。

「ルールを決めても、結局守られない」という経験も、よく耳にします。実際には、なぜそのルールが必要なのかが共有されていない、現場の実態とかけ離れた内容になっている、社長自身が例外対応を繰り返している、といった要因が重なっていることがほとんどです。これは、ルールの有無ではなく、設計と運用の問題です。ルールは、内容の正しさだけでなく、「誰が、どのように関わって作ったか」というプロセスによって、その後の定着度が大きく左右されます。

自社でやってみる① チェックリストで現在地を確かめる

まずは、自社がいまどのような状態かを確かめてみてください。当てはまるものが多いほど、経営管理の必要性は高まっています。全13項目のうち7個以上当てはまる場合は要注意です。

  • 売上は見ているが、利益はあまり見ていない

  • 全社の売上・利益は決算書という形で確認できるが、部門別の損益は把握できていない

  • 今月・来月の営業利益の着地を、根拠をもって説明できない

  • KPIが整理されておらず、「とりあえず頑張る」マネジメントになっている

  • 社長がいないと意思決定が進まない

  • 拠点や部門ごとの成果にばらつきがある

  • 忙しさの原因が感覚的にしか分からない

  • 中長期的なテーマ(事業承継含む)が後回しになっている

  • 判断に迷う場面が増えている

  • 経営の方向性を言語化できていない

  • 経営の判断が自分に集中している(属人経営になっている)感覚が強い

  • DX/AIの活用について、何から手をつければよいか分からない

  • 先代や自分の判断の経験知が、後継者や幹部に共有されていない

当てはまった項目が、着手する場所の手がかりになります。大切なのは、最初から完璧な仕組みを目指さないことです。部門別の損益が見えていないのであれば部門別損益から、KPIが整理されていないのであればKGI・KPIツリーから、というように、自社にとって最も切実な課題から着手し、運用しながら精度を高めていきます。分厚い規程や複雑な帳票を一度に整えようとすると、現場が追いつかず、使われないまま形骸化してしまいます。

自社でやってみる② 「重要だが緊急度の低いこと」に時間を確保する

社長の日常業務は、目の前のトラブル対応、資金繰りや金融機関対応、人に関する問題など、緊急度の高いことに追われがちです。一方で、業績の見える化、経営管理の仕組みづくり、組織体制やルールの整備といったテーマは、重要であるにもかかわらず後回しになりがちです。

図表4-1 優先順位のマトリクス

  • 第1領域(重要度・緊急度ともに高い):最優先業務。この領域が溜まってくると、目の前の対応で精一杯になる

  • 第2領域(重要度は高いが緊急度は低い):放置すると第1領域に移行する。計画的な実行が必要で、経営管理・経営企画・組織づくりの多くはここに含まれる

  • 第3領域(重要度は低いが緊急度は高い):効率化を図り、仕組みで判断できる体制を構築する

  • 第4領域(重要度・緊急度ともに低い):やらない。もしくは外注(完全なシステム化含む)を検討する

多くの社長が忙しいと感じているのは、第1領域と第3領域の業務に追われ続けているからです。第2領域に意識的に時間を割かない限り、この状態は変わりません。経営管理体制構築とは、第2領域に時間を確保するための「仕組みへの先行投資」だと捉えることができます。

第2領域に組織として向き合うための工夫は、次の4つです。

  1. 中期経営計画の進捗確認や組織課題を扱う会議体を、あらかじめ定例として「先約」してしまう

  2. 既存の経営会議のアジェンダに、中期的なテーマを扱う枠を固定的に設ける

  3. 緊急対応は別チャネル(エスカレーションフロー)で処理すると、あらかじめ決めておく

  4. 会議体を「決めるだけの場」で終わらせず、議事録・実施事項を明確にして、次回必ず進捗を確認する

中小企業であれば、月に一度、1〜2時間の枠を確保するだけでも、第2領域への取り組みは大きく前進します。

経営管理は、会社の成長とともに育てていくもの

経営管理は、一度作れば終わりの単発プロジェクトではありません。継続的に運用し、状況の変化に合わせて改善し続けていく「仕組み」です。社長が肌感覚で培ってきた判断基準こそが、経営管理の仕組みの出発点になります。

次回は、経営管理のうち「カネ」にあたる、数字を判断の武器にする管理会計についてお伝えする予定です。

※拙著『経営の仕組みが、中小企業の成長を加速させる』第2章では企業経営体系図の各階層を、第4章では優先順位のマトリクスと管理会計の考え方を詳しくご紹介しています。

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