Ikeda Consulting Office

Blog一覧へ

理念を「数字と行動」に変える―企業経営体系図に沿った中期経営計画の策定プロセス

前回の記事では、企業経営体系図の第1階層「理念体系(VMV)」のつくり方をお伝えしました。今回は第2階層「戦略・計画」の中心となる、中期経営計画の策定についてご紹介します。

第2階層は、理念体系(何を大切にするか)を受け取り、それを「では具体的に何を、いつまでに、どのように実現するのか」という中期経営計画・単年度計画に翻訳する階層です。理念体系だけでは、目指す世界観は共有できても、日々の行動には落とし込めません。理念を実行可能な数字と行動計画に変換するのが、この階層の役割です。

中期経営計画は「未来の話」をするための道具

中期経営計画というと、「作るのが大変」「どうせ計画どおりにいかない」という印象を持たれがちですが、本来の役割は、未来について話すための共通言語です。

  • どのように社会に貢献するのか

  • どの事業を伸ばすのか

  • どこに投資(人材・設備・M&A等)するのか

  • どの水準(財務指標など)を目指すのか

これらを感覚ではなく、言葉と数字で共有する。それが中期経営計画の役割です。中期経営計画は、基本的には計画どおりに進めていくべきものです。計画があるからこそ、組織全員が同じ方向を向き、日々の判断や行動をそろえることができます。ただし、環境が大きく変わったときには、前提を見直したうえで計画を修正することも必要です。その場合も、場当たり的に変えるのではなく、なぜ変えるのかを説明できる形で見直すことが重要です。

中期経営計画を構成する7つの要素

中期経営計画は通常3〜5年程度の期間で描き、大きく次の要素で構成されます。

  1. 現状分析(経営診断):自社の現在地を把握する

  2. 事業戦略:何を目指すのか

  3. 組織戦略:誰が担うのか

  4. 投資・DX/AI・資金計画:何にいくら使うのか

  5. 財務諸表計画:数字にするとどうなるか

  6. 部門別計画:現場でどう分担するか

  7. 単年度計画:その年度に何をするか(予算書とアクションプラン)

要は「何を目指し」「誰が担い」「何にいくら使い」「数字にするとどうなるか」「現場でどう分担するか」を、順を追って言葉と数字にしていく作業です。

策定の順序と全体の流れ

中期経営計画は、経営診断で自社の現状を把握したうえで、VMVを確認し、目標の実現に必要な事業戦略・組織戦略・投資計画を検討します。どのようなビジョンを、いつまでに目指すのか。ここが定まらないまま数字の議論に入ってしまうと、計画が単なる予算積み上げになってしまいます。KPIの設定や投資判断、財務モデリングを通じて、必要な人員・費用・資金と目標との整合を確かめ、各計画を相互に見直しながら具体化し、部門別計画・単年度計画・アクションプランに落とし込みます。

下の図は、策定の全体の流れを示したもので、実際のプロセスは一方向に進むものではありません。財務諸表計画で数値化した結果を見て各計画に立ち戻りながら相互に見直し、固まった内容を部門別計画・単年度計画・アクションプランへと落とし込んでいきます。

図表3-1 中期経営計画・単年度計画策定の全体の流れ

ステップ1 経営診断で、自社の現在地をつかむ

中期経営計画・単年度計画の策定前には、現状の経営棚卸し(経営診断)が必ず必要です。外部環境(PEST分析・5F分析・3C分析)と内部環境(VRIO分析・バリューチェーン分析)を分析し、それらをクロスSWOT分析で掛け合わせて、戦略の方向性に変換します。

自社の強みを整理するときは、VRIO分析の4つの問いを順番に投げかけてみてください。

  • Value:その強みに、経済的価値があるか

  • Rarity:希少性があるか(同業他社も当たり前にやっていないか)

  • Imitability:他社が簡単に真似できないか

  • Organization:組織としてそれを活かす体制(人材配置や評価制度、業務プロセス)があるか

「うちの強みは技術力です」「対応の速さです」と思っていても、この4つの問いに答えてみないと、それが本当に競争優位につながっているかは分かりません。価値はあっても希少性がなければ、それは「業界の当たり前」です。社長と幹部で、強みと思うものを書き出し、1つずつこの4つの問いに当てはめてみることから始めてみてください。分析そのものを目的にせず、次のステップにつながる分析にすることが大切です。

ステップ2 事業戦略―何を目指すのかを描く

事業戦略は、クロスSWOT分析で導かれた方向性を、具体的な事業の絵姿に落とし込む工程です。実務では、ビジネスモデルキャンバスを使って、事業の全体像を俯瞰することから始めることが多くあります。

ビジネスモデルキャンバスは、自社の事業を「誰に(顧客セグメント)」「何を(提供価値)」「どのように届け(チャネル・顧客関係)」「どう収益を得て(収益の流れ)」「それを何(主要リソース・主要活動・パートナー)によって、いくらのコスト(コスト構造)で成り立たせているか」という9つの要素に分解し、1枚の図にまとめる手法です。

図表2-12 ビジネスモデルキャンバス(中小企業向け経営コンサルティング業界の例)

作成する際は、社長のみで完成させるのではなく、幹部社員を巻き込みながら付箋やホワイトボードを使って議論しながら埋めていくやり方をお勧めしています。9つの箱すべてを一度に完璧に埋めようとする必要はなく、まず埋められるところから着手します。埋まらない箱があれば、それこそが事業構造の中で言語化が追いついていない部分です。あわせて、STP(誰に、どのような立ち位置で勝負するか)や、複数事業を展開する会社であればPPM(どこに経営資源を重点配分するか)も、必要に応じて組み合わせます。

ステップ3 組織戦略―誰が担うのかを決める

事業戦略で「何を目指すか」が定まったら、次はそれを「誰が担うのか」を決める組織戦略です。実務では、組織図(部門や役職の配置)と要員計画(いつまでに、どの部門に、どのような人材が何名必要か)を中心に検討します。

組織戦略は後回しにされがちな要素ですが、「実行する体制」の検討が不十分だと、計画を作っても実行されないまま終わりかねません。現在の組織図を前提にせず、事業戦略を実現するために本来どのような組織であるべきかを一度白紙で描き、そこから現状とのギャップ(採用すべき人材、育成すべき幹部候補、権限委譲すべき業務)を洗い出すという順序が実務的です。

ステップ4 投資・DX/AI・資金計画―何にいくら使うのかを決める

事業戦略と組織戦略が定まると、それを実現するために「何にいくら使うのか」を検討します。設備投資計画、DX/AI計画、資金調達計画(自己資金・金融機関からの融資・補助金等の活用)が含まれます。投資したいものを並べるだけでなく、その投資が事業戦略のどの部分にどの程度貢献するのかを必ず紐づけて検討することが大切です。

投資判断は、PL・BSを作成する前に、別のシミュレーションとして先に行います。想定どおりに進んだ場合(標準シナリオ)、需要が下振れした場合(保守的シナリオ)、想定以上に伸びた場合(上振れシナリオ)といった複数パターンで試算したうえで、NPV・投資回収期間・IRR・財務諸表分析という4つの指標で実行の可否を判断します。

図表3-5 投資判断で用いる4つの指標と判断の流れ

たとえば600.0百万円の設備投資で、毎年150.0百万円のキャッシュフロー増加が5年間続くと仮定すると、資本コスト年5%で割り引いたNPVはおよそ+49.4百万円、単純回収期間は4.0年、IRRはおよそ7.9%です。いずれか1つの指標だけで判断するのではなく、投資単体の採算と、会社全体の財務体質への影響の両方を確認することが大切です。

ステップ5 財務モデリング―戦略を数字に落とし込む

事業戦略として描いた打ち手を、実際に数字として組み立てる作業が財務モデリングです。難しい作業だと思われがちですが、骨格はシンプルです。①現状のビジネスモデルにおける収益構造(PL)・財務状況(BS)を分解し、②「単価×件数」のように売上高を、「1人当たり人件費×人員数」のように費用を、それぞれ積み上げ式で算出して営業利益を導き、③最後にBSを算出します。

図表3-2 財務モデリングの作り方

具体的には、①売上計画→②要員計画→③経費計画→④投資計画→⑤資金調達計画→⑥中期PL・中期BSという順に、パラメーター(算出のもとになる指標)を一つひとつ積み上げていきます。前提条件(売上高の成長率や粗利率、人件費の増加率など)を曖昧にしたまま数字を積み上げると、後から「なぜこの数字になったのか」を説明できない計画になってしまうため、前提条件は必ず書き出しておきます。

次の図は、売上高3,000百万円・人員100名の製造業が、5年目に売上高3,500百万円・人員105名を目指すモデルケースの中期PLです。仕入・材料費の見直しなどにより限界利益率を33.2%から38.2%へ高め、営業利益率を3.5%から8.3%へ改善する計画としています。収益性・生産性・成長性・安全性の経営指標もあわせて5か年分眺めることで、「収益性・財務体質をどのくらいのスピードで強化できているか」が見えてきます。

図表3-3 中期PL(単位:百万円)

なお、金額は百万円未満を丸めて表示しているため、表示上の合計が一致しない場合があります。

この数字は、最初から精緻に作れるものではありません。月次の実績を積み重ねながら、パラメーターを毎年見直し、精度を上げていくものです。ご自身で取り組む際は、まず自社の直近1〜2期分の試算表・決算書を手元に置き、①の収益構造(PL)・財務状況(BS)の分解から、ご自身の事業に置き換えて数字を積み上げてみることをお勧めします。

ステップ6 部門別計画・単年度計画に落とし込む

中期経営計画で描いた全社の方向性は、そのままでは現場の行動にはつながりません。部門別計画は、全社の事業戦略・財務諸表計画を、各部門が担うべき役割と数字に分解したものです。単年度計画は、その部門別計画をさらに1年単位に区切り、全社および部門別の予算書と、具体的なアクションプラン(いつ、誰が、何を行うか)にまで落とし込んだものです。

財務諸表計画で示された営業利益等の目標水準はKGIとして設定され、そこから日々の業績管理で追いかけるKPIへと分解されていきます。中期経営計画が単年度計画に、単年度計画が月次の予実管理など日々の経営管理に、それぞれつながっているかどうかを確認することが、計画を「形だけのもの」にしないための重要なチェックポイントです。

策定は「プロジェクト」として進める

経営診断が済んだら、社長のみで計画を作るのではなく、「中期経営計画策定プロジェクト」として社内で立ち上げ、経営幹部を巻き込みながら、自分たちの計画として「自分事化」した中期経営計画を作っていくことをお勧めしています。社長のみで作った計画は、社長の熱量でしか進みません。幹部を巻き込んで一緒に作ることで、実行段階での推進力が大きく変わってきます。

プロジェクトでは、社長を最終責任者(オーナー)としつつ、社長自身も検討会のメンバーとして毎回参加し、幹部と同じテーブルで議論する体制をお勧めします。幹部の中からリーダーと事務局を決め、検討の進行や資料の取りまとめを担ってもらいます。社長は、目指す方向性や譲れないこだわりを自らの言葉で伝えながら、幹部の意見にも耳を傾けます。任せきりにも、一人で決めきりにもせず、社長が議論の場に積極的に関わり続けることが、計画を「自分たちの計画」にする一番の近道です。

計画を作ると見えてくる「発展的な課題」

この順序で中期経営計画を作っていくと、必ずと言っていいほど「この目標を達成するには、いまの組織のままでは難しい」「この戦略を実行するには、権限や役割分担を見直す必要がある」といった発展的な課題が出てきます。こうした課題は、企業経営体系図の第3階層「経営企画・経営管理」の仕組みづくりに紐づくことがほとんどです。中期経営計画は、作って終わりではなく、そこから見えてくる組織・仕組みの課題に向き合って初めて、実行力のある計画になります。

中期経営計画を「作りっぱなし」にしていないか―チェックリスト

  • 中期経営計画が、現状の延長線上の無難な目標になっている

  • 中期経営計画の策定を、経営幹部を巻き込まずに進めている

  • 事業戦略を、財務モデリング(数字)で検証していない

  • 前提条件を書き出さないまま、感覚で計画を作っている

  • 中期経営計画を作った後、前提条件を見直す機会を設けていない

  • 計画を作った後に見えてくる組織課題(権限委譲や体制づくり)に向き合えていない

  • 中期経営計画と単年度計画が、連動していない

  • 設備投資などの投資判断を、NPVや投資回収期間、IRRといった定量的な指標を使わずに、感覚で行っている

次回は、企業経営体系図の第3階層「経営企画・経営管理」についてお伝えする予定です。

※本記事は、拙著『経営の仕組みが、中小企業の成長を加速させる』第2章・第3章の内容をもとにしています。書籍では、中期BSのモデルケースや投資判断の考え方もより詳しくご紹介しています。

本書はAmazonでお求めいただけます(ペーパーバック版・Kindle版)。(Amazonの書籍ページ)